不正咬合ってなに?
不正咬合(ふせいこうごう)とは、ただ歯並びが悪いというだけでなく、正しい位置で上の歯と下の歯が咬み合っていない状態をいいます。例えば、上の歯が出ている「出っ歯」や、犬歯(糸切り歯)がほかの歯よりも外側に飛び出している「八重歯」、上の歯よりも下の歯の方が前にでている「受け口」など、これらの歯並びは多くの場合、奥歯の咬み合わせにも問題があります。
平成28年に行われた、歯科疾患を調査する厚生労働省の「歯科疾患実態調査」では、12~15歳までで出っ歯ぎみのお子様が全体の約40%近くにものぼり、歯のガタガタ(叢生)のある割合は、約30%という結果でした。
この数字から分かるように、不正咬合であるお子様の数はとても多く、これに付随してお口周りの筋肉が正しく機能していない事も問題となっています。
なんで不正咬合になるの?
では一体、どうして不正咬合は起こるのでしょうか?
不正咬合の原因は、大きく分けて
・遺伝
・虫歯や歯周病
・生活習慣
の3つに分けられます。
遺伝
先天的な原因として最も多いのは、「遺伝」です。有名なハプスブルク家は、代々の肖像画に受け口の特徴が色濃く描かれています。歯並びが直接遺伝するというよりは、土台である顎や歯の大きさ、形が遺伝することにより不正咬合が発現するということです。
虫歯や歯周病
特に小児の場合、虫歯によって不正咬合が起こるケースが少なくありません。これは、虫歯によって歯が大きく欠損した場合に、「本来乳歯によって確保されるはずの、永久歯が生えるスペースがなくなる」ことが原因とされています。
しかし、この虫歯由来の不正咬合は、歯を修復材で補填したり、永久歯が生えるまでそのスペースを確保する器具を使用したりすることで、未然に防ぐことができるのです。
どうせ抜けるから…と放置するのではなく、不正咬合を防ぐため乳歯でもしっかりとした虫歯治療が必要です。
生活習慣(お口周りの癖)
歯はほんの数十グラムの力で動いてしまうのをご存じですか?歯列矯正はこの特性を利用し、微弱な力を加えることで歯を並べているのです。
しかし、舌や唇によって生じる力は、矯正器具よりもはるかに高い、数百グラムといわれています。つまり、歯にとって良くない癖が習慣になってしまうと、不正咬合の引き金になってしまうということです。
この良くない癖は具体的に挙げると、一定年齢を超えても続く指しゃぶりや口呼吸、唇を噛んだり吸ったりする癖、舌を突き出すような癖が挙げられます。これらの癖が継続的に行われると、歯はそれに従って動き続けてしまい、不正咬合へと繋がってしまいます。
これは小児に限らず、成人にも同じことが言えます。遺伝や歯科疾患に関わらず、癖が習慣化してしまうと、年齢関係なく誰にでも起こり得ることなのです。
不正咬合はいつ治療すればいい?
3歳児検診
3歳児検診には、体重や身長だけでなく、歯科の検診も含まれています。3歳といえば個人差はあるものの、乳歯が生えそろっている時期でもありますよね。この時点である程度不正咬合の傾向があることも多いため、検診結果を見て矯正相談へ行ったという保護者の方も多いのではないでしょうか?
この時期に行われる矯正は、固定器具を装着するような本格的な矯正治療ではなく、不正咬合にならないようにする「予防矯正」がメインとなります。
ただし、永久歯が生え始めるまでは様子見とするドクターも多いため、検診で指摘されたからと言って、必ずしもすぐに矯正を始めるべきということではありません。まずはかかりつけ医や矯正専門のクリニックで相談するのが良いでしょう。
混合歯列期(Ⅰ期治療)
混合歯列期(こんごうしれつき)とは、乳歯と永久歯が混在している「永久歯が生え始める約6歳から、永久歯が生え揃う13歳の時期」です。このⅠ期治療では、まだ顎が成長途中であることから、顎の成長を利用した矯正治療を行うことができる点が最大のメリットです。
小学校の歯科検診で不正咬合を指摘されることも多いため、これをきっかけに矯正治療を始めるご家庭も多いでしょう。Ⅰ期治療をしたら次に続くⅡ期治療をしなくてもいい、ということではありませんが、Ⅰ期治療を行うことで、
・抜歯を避けられる可能性が高くなる
・Ⅱ期治療が楽になる
・ケースによってはⅡ期治療が必要なくなる
といった利点が存在します。
永久歯が生えそろった時期(Ⅱ期治療)
このⅡ期治療と呼ばれる治療は、永久歯が生えそろってから行われる矯正治療の総称です。成人矯正と呼ばれるものと内容は同じであり、永久歯列である14歳以降はⅡ期治療が適用されます。
Ⅰ期治療では永久歯の抜歯はしませんが、このⅡ期治療では診断結果によって、抜歯をするケースも多くあります。Ⅰ期治療との大きな違いは、「土台である顎の骨には干渉せず、歯のみを動かして並べる」という点です。ただ、Ⅰ期治療をしていないからといって、Ⅱ期治療ができないということではありませんので、ご安心ください。
さいごに
以上のことをまとめると、
●不正咬合の先天的な原因である「遺伝」は避けるのが難しいが、後天的な原因である「虫歯や歯周病」「生活習慣」は正しい知識と介入により予防できる
●不正咬合の治療を始めるタイミングは、
・3歳児検診
・永久歯が生え始めた頃
・乳歯がなくなり永久歯が生え揃った頃
であるが、歯並びによって始めるべきタイミングはそれぞれ異なる
ということになります。
小児の矯正治療では、適切なスタート時期が歯並びや顎の大きさなどによって異なります。しかし、リスクの有無や、お口周りの習慣に悪いものはないかなど、保護者の方だけで判断するのは難しいのが現実です。
不正咬合の予防のためにも、まずはフッ素やクリーニングなどで歯科医院を受診し、疑問点などがあれば随時相談することをおすすめいたします。
また、成人矯正はⅡ期治療とも呼ばれ、顎の骨がしっかりとしていれば年齢的な制限はありません。不正咬合の改善は見た目だけではなく、機能的、心理的にも大きなメリットがありますので、歯並びや咬み合わせが気になっていると言った場合には、歯科医院を受診してまずは相談するのが良いでしょう。