虫歯や歯周病の治療では、ときには歯を抜かなくてはならない場合があります。
抜歯後、空いた部分を補う治療法のひとつが義歯の装着(入れ歯)です。
その他、ブリッジやインプラントといった治療法がありますが、どれを選べばいいのか悩んでしまうこともあるでしょう。
最近では、歯を失った場合にインプラント治療を提案する医院が増え、実際にインプラントを選択する方も多いようですが、選択肢は上記の通り、インプラントを含め、3種類あります。
どういった治療が最適なのかは、あなたのお口の中の状態や治療にかけることができる期間、予算によって変わってきます。
歯を失った場合にはどのような治療が受けられるのか、治療ごとの特徴やおおよその費用などもあわせて確認しましょう。
欠損部を補う手法は3通り
「1本ぐらいなくても大丈夫…」と思って放置するのは禁物です。
歯がなくなった場合、前歯だと息が漏れて発声に不都合が生じたり、顔の印象が変わってきます。
奥歯だと固いものを噛みきれなくなったり、周囲の歯の磨き残しの原因にもなります。
また、歯には空いたスペースを埋めようとする性質があります。
隙間を埋めるため、両隣の歯が移動したり、かみ合っていた歯までもが移動してしまうことがあります。
さらに、この変化を受けて他の歯も動き、結果として全体に影響を与えます。
このような歯の移動は歯と歯の間に隙間をつくったり、歯並びをデコボコにしてしまい、磨き残しのできやすい環境になったり、顎の可動域を制限してしまう原因になることもあります。
たった1本の歯を失っただけでも、他の歯への影響するリスクを引き上げてしまうのです。
歯が抜けたら、歯並びが悪くならないうちに、その部位を補う治療を受けるようにしましょう。
現在、欠損部位を補う治療として広く行われているのは大きく分けて「ブリッジ」「入れ歯」「インプラント」の3通り。
それぞれ、治療の進め方やかかる金額が異なります。
お口の健康状態やご希望に合わせて、ご自身にとって最適と思われる治療を選択する必要があります。
ブリッジ…両隣の歯が欠損部の負荷を支えられる必要がある。
【保険診療】2万円~3万円 【自由診療】20万円~40万円
※ブリッジの費用は3本分、欠損部1本あたりの平均費用。
入れ歯…自分の歯が少なくても適用できる。
【保険診療】1万円~2万円 【自由診療】20万円~100万円
※保険診療は、3割の自己負担額で計算。
インプラント…歯ぐきが健康でなくてはならない。
【自由診療】20万円~40万円
※自由診療に必要な費用は歯科医院によって異なることがあります。
ブリッジ
抜けた歯の両隣の歯を支えにして、金属やセラミックなどでできたの人工の歯を装着します。
ちょうど歯と歯の間に橋をかけたような格好になるので「ブリッジ」と呼ばれています。
ブリッジには次のような特徴があります。
・保険適用での治療を受けることができる
厳密には、「ブリッジ治療では保険診療を選ぶこともできるケースが多い」です。
力の配分、バランスをによっては保険が適用されない場合もありますので、担当歯科医師に確認しましょう。
費用は、1本欠損で前後の歯1本ずつをかぶせた場合、2万円~3万円程度(3割負担)が標準です。
材質は前歯ならば白色の樹脂、奥歯ならば金銀パラジウム合金の銀歯が使われます。
一方、審美性や耐久性を追求した自由診療では、セラミックやジルコニアといった自然な白さで自分の歯とほとんど見分けがつかないように修復することができます。
自由診療の費用は20万円~40万円ほどかかります。
・安定性が高く、しっかり噛むことができる
ブリッジは両隣の歯で固定するため、比較的安定性が高くかみ心地がいいとされています。
入れ歯の使用者がしばしば訴える、異物感や味覚・温冷感覚の鈍化はありません。
・健康な両隣の歯を削らなければならない
もちろん短所もあります。
装着時の支えにするためにその両隣の歯を必要最低量ですが削る必要がある、ということです。
支える歯にかかる負担を抑えるため、補う歯は多くても2本までが適切だとされています。
また、ポンティック(人工の歯のうち、支台となる歯が無い部分のこと)の下のところは歯垢がたまりやすく、支台となる歯は虫歯や歯周病にかかるリスクが高まり注意が必要です。
歯間ブラシを使って丁寧にメンテナンスしましょう。
入れ歯
歯ぐきの上に乗せて咬み、取り外しができる入れ歯は、「部分入れ歯」と「総入れ歯」に分けられます。自分の歯が1本でも残っており、そこにバネをかけた入れ歯のことを「部分入れ歯」といいます。
部分入れ歯には次のような特徴があります。
・安価に治療できる
入れ歯も保険診療を選択することができます。
一般的なものだと1万円~2万円程度(3割負担)です。
ちなみに、総入れ歯の場合でも1万円程度(3割負担)で入れ歯を作ることができます。
保険が適応できないインプラント(一本あたり20万円~40万円)と比べると極めて低コストで治療を受けることができます。
・残った歯をほとんど削らずに歯を補うことができる
部分入れ歯の場合、金属製のバネを残った歯にひっかけて入れ歯の土台を固定します。
バネをかける部分を設けるため、土台となる歯を少し削る必要がありますが、それ以外に手を加えることは基本的にありません。
健康な歯はしっかり残して、失った歯を補うことができるのです。
また、抜けてしまった歯が多い場合など、ブリッジができない場合でも適用できるというメリットがあります。
・メンテナンスが比較的楽にできる
入れ歯は取り外して洗浄することができるため、メンテナンスでお口の健康を維持することは比較的楽だといえるでしょう。
逆に言うと、洗浄時には必ず入れ歯を取り外す必要があります。
また、しっかりしてそうに見えても、入れ歯だからと言って乱暴に扱うと、バネが歪んだり、しっかり装着ができなくなります。
長く快適に使い続けるために、取扱いに十分注意しましょう。
・保険診療で使える材料は異物感があることも
比較的安価で作成できる保険入れ歯ですが、土台となる床に厚みがあり、装着時に違物感があることは否めません。
また、熱が伝わりにくく温冷の感覚が鈍くなったり、味を感じにくくなることもあります。
自由診療では、費用がかかりますが、金属製の薄い床を使った入れ歯にすることで舌感の改善や食事の熱を感じやすくすることができます。
また、保険診療でも自由診療でも、一度で入れ歯のかみ合わせがピタリとはまることは少ないようです。
かみ合わせを診ながら何度も調整を重ねることで、次第に入れ歯が強く当たる箇所が少なくなり、ご自身のお口の中にぴったり合うようになります。
そうすることで、快適に発音や咀嚼ができるようになっていきます。
インプラント
インプラントとは、抜けてしまった歯の代わりに、ネジのような外見の人工歯根を歯を失ったあごの骨に埋め込み、その上に人工の歯を取り付けることで歯としての機能を取り戻す治療法です。
最近では歯を補う方法としてインプラント治療を積極的にすすめる歯科医院が増えているようです。
インプラント治療には次のような特徴があります。
・安定性が高くしっかり噛める
人工歯根を直接あごの骨に埋め込んで固定するため、安定性がありしっかり噛むことができます。
条件にもよりますが、噛み心地の回復は、一番良いとされています。
ただし、歯周病が進行しているなどの理由であごの骨が極端に少ない場合、そのままインプラント治療を受けることができません。
その場合であっても、骨移植など骨を増やす治療で対応出来る場合があります。
一度かかりつけ医にご相談ください。
・見栄えがよく審美性が高い
人工歯根の上にかぶせる上部構造の色や形を周りの歯に合わせて調整することができるので、自然な見た目に仕上がります。
・メンテナンスが欠かせない
インプラントの周囲では免疫機構が働きにくくなるため、処置部位で歯周病のリスクが高まります。(インプラント特有の歯周病としてインプラント周囲炎と呼ばれています)
インプラント周囲炎が進行し、顎の骨が吸収してしまうと、インプラントを支えることができず、人工歯根を抜かなくてはならなくなる場合もあります。
健康な歯よりも、さらに入念に歯磨きや歯間ブラシなどのケアを行う必要があります。
また、定期的に歯科医院に通って状態を確認してもらうことがインプラント周囲炎の予防に効果的です。
・保険が適用されない
インプラントが他の治療と最も異なる点は、保険が適用されず、基本的にすべて自由診療になってしまうことでしょう。
そのため1本あたり20万円~40万円ほどの費用が必要で、治療は高額になります。
また、あごの骨に深く穴をあける必要があるため、充実した設備と高度な技術・経験をもった歯科医師に相談することが、安全に治療を進めるうえで欠かせません。
人工歯はメンテナンスを忘れずに
かつて、歯を補う治療は義歯を入れれば完了だといわれていました。
しかし、人工の歯を良好な状態で使い続けるためには、普段からのメンテナンスが欠かせません。
私たちの体は日々変化し続けていますし、義歯を装着したことでかみ合わせが変化することもしばしばみられます。
また、歯が抜けてしまった場所には歯垢がたまりやすく、周囲の歯の虫歯や歯周病を引き起こしてしまう危険性が高まります。
そのため、毎日のセルフケアは一層大切にしましょう。
その上で、定期的に歯科医院に通い、歯や歯ぐきの状態を確認してもらうことをおススメします。
とくにインプラントは、天然の歯に比べると免疫機構が弱くなってしまっているので、その周辺で歯周病(インプラント周囲炎)のリスクが高まります。
インプラント治療を受けられた方は、歯科医院での定期的なメンテナンスは必須です。
放置して手遅れになってしまったケースも散見されますのでご注意ください。
どうしても歯のケアに自信がないという方には、残念ながらインプラントはあまりおすすめできません。
突然歯を抜く事態に陥ってしまうと慌ててしまうかもしれませんが、かかりつけの先生にしっかり相談した上で、ご自身のお口の状態をしっかり把握し、許容できる期間や予算を考慮し、治療方針を決めていくことが大切です。
どの治療法にも一長一短があります。
後戻りのできない治療もあります。
心配であれば、積極的にセカンドオピニオンを受け、きちんと納得のいく治療法を選択してください。
あなたにとって最適な治療が受けられることを心から願っています。
編集後記
編集後記では毎回、編集部のおすすめする全国の歯科医院さんをご紹介させて頂きます。
※本編とは直接関係ありません
患者さんが健康で美しく快適な生活を送るお手伝いをすることを真摯に目指されている医院さんです。一般的な歯科治療のみならず、予防処置、歯周病治療、インプラント治療、審美歯科などにも対応されています。