知っておきたい入れ歯のトラブル・不具合

  • 2023年1月31日
  • 2023年12月15日
  • 入れ歯

失った歯を補う際によく使われる入れ歯ですが、お口の中に違和感を覚えたり、歯ぐきが痛くなることも珍しくありません。

また、長く使っているうちに入れ歯が合わなくなってしまうことがあります。

これらの不具合はどのようにして引き起こされるのでしょうか。

トラブルの原因と解決のヒントを紹介します。

初めての入れ歯はトラブルがつきもの

入れ歯は床と呼ばれる土台を顎の内側や歯ぐきに吸着させて固定します。
今までなかった人工のものを入れることになるため、慣れるまでは違和感を覚えます。

異物感があったり、舌や頬の内側を噛んでしまったり、発音がしずらいといったトラブルを多くの方が経験しますが、入れ歯に慣れていくにしたがってこうしたトラブルは解消されていきます。

トラブルケース1.味や冷温の感覚が変わってしまう

入れ歯を装着すると味覚や熱い・冷たいといった感覚が変化してしまったり、ものを噛みにくいと感じることがあります。
しかし、味覚の変化は加齢による生理現象でも起こりますので、やはり個人差があります。

初めて入れ歯をつけられる方は、異物感により心理的にも引き起こされることもあるようです。
また、歯ごたえや歯ざわりの変化があります。

それは、歯根膜組織の喪失によるものです。歯根膜は、もともと歯と歯を支える歯槽骨の間にある組織で、圧力を感じるセンサーの役割をします。

人間は舌と咀嚼筋(噛むときに使う筋肉)、歯根膜組織を使って味や食感を感じています。

入れ歯になると、このうち歯根膜組織を使った伝達機能が働かなくなり、食感が変わり、味の感じ方に影響を与えることがあります。

歯ぐきでカバーしようとはするようですが、どうしても感度は落ちてしまいます。
一方、熱い・冷たいの冷温熱に対する感覚の変化は、入れ歯を固定する床(ピンク色の歯ぐきに相当する部分)に原因があります。

上顎の粘膜の裏側には、熱を感じる神経があります。

しかし、入れ歯の床が上顎の粘膜を広く覆ってしまうと、熱が伝わりにくく、冷温熱に対する感覚が鈍くなってしまうのです。
そのため、保険診療の「レジン床」(上顎をいわゆるプラスチックで覆った状態)から自由診療の「金属床」(上顎を金属のプレートで覆った状態)に変更することで、冷温熱の感覚は改善します。

金属床はレジン床と比べて、熱伝導がよく、さらに、薄く、均一に作成することができるためです。

トラブルケース2.入れ歯が臭う

入れ歯は自分の歯じゃないからと、お手入れの際に油断してしまう方が見受けられますが、入れ歯も天然歯と同様に歯垢や歯石が蓄積し、口臭やその他のお口のトラブルの原因になることがあります。

そのため、毎日のお手入れをきちんと行うことが重要です。
入れ歯は流水で軽くすすいだあと、歯ブラシや義歯用ブラシで汚れを除去しましょう。
口から取り外して保存する際は、乾燥による変形を防ぐため、必ず水を入れた容器の中で保存しましょう。
歯石が付いてきたり、こすっても取りきれない汚れは、入れ歯洗浄剤を入れるとなおよいです。
ひび割れや変形の原因になりますので、熱湯で消毒することは避けましょう。

トラブルケース3.入れ歯が動く・装着していると気持ち悪い

多くの場合、入れ歯を使っているうちに口の中の状態が変わってきます。
例えば、入れ歯を入れると噛み方が変わったり、歯ぐきにかかる力が異なることで歯ぐきが変形するケースが考えられます。

また、顎への力のかかり方が変化したり、入れ歯が動いて歯ぐきに擦れたりといった理由で、歯ぐきや顎に痛みを感じることも考えられます。
その改善のために、その時々の歯ぐきやかみ合わせや痛みの状態に合わせて、何回か調整を繰り返す必要があるのです。
また、奥歯の部分が長すぎることが原因で気持ち悪さを感じることもあります。

こういった不具合を感じている方は、かかりつけの歯医者さんに相談して、入れ歯の調整や修理をお願いしましょう。
不具合を感じていてもすぐに歯医者に行けない場合や、新しい入れ歯の作製中には、市販の入れ歯安定剤が有効です。

入れ歯安定剤を入れ歯と歯ぐきの間に入れることで密着度が改善され、違和感や痛みが緩和されます。
しかし、入れ歯安定剤を長く使い続けているうちに、歯ぐきに対する入れ歯の装着位置が変わってしまったり、骨の吸収を早めてしまうことがあります。
あくまで一時的な使用に留め、入れ歯本体の調整を優先させるように心掛けましょう。

トラブルケース4.長年使っていた入れ歯が合わなくなった・動くようになった

一方、しっかりフィットしていたはずの入れ歯が次第に合わなくなり、すぐにずれたり、口を開けると落ちてきてしまうことがあります。
それは、歯ぐきの部分がやせてきたり、入れ歯の歯の部分がすり減って、高さ、かみ合わせが変わってきたことによります。
歯がなくなった後、歯を支えていた歯槽骨(顎の骨)は、力のかかり具合により徐々に変化していき、歯が並んでいた歯ぐきのいわゆる「土手」の部分がでこぼこになったり、くぼんだりしていきます。
なぜ歯槽骨が吸収されてしまうのかについての定説は今のところ無いようですが、歯が失われることで、骨にかかる力のバランスに問題が生じていることが関与しているようです。

噛む力のバランスが崩れることで、骨の代謝の均衡が崩れ、骨を破壊(吸収を促す)する破骨細胞の作用が優勢になってしまうのです。
歯ぐきの吸収や入れ歯の経年劣化で合わなくなった場合は、調整が必要であり、調整で間に合わない場合は、作り替えも検討していく必要があります。

定期的なメンテナンスで不具合を解決

2011年の国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)によると食事の際に常に入れ歯を使っている人の割合は、70歳以上のおよそ6割にも上ります。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h23-houkoku.html
多くの人が使っている入れ歯ですが、不具合なく使い続けるためには定期的なメンテナンスが欠かせません。

日常生活に問題を感じてらっしゃらなくても、歯科医側から見れば、トラブルにつながりそうな箇所が見つかることがあります。

こまめに入れ歯のかみ合わせを調整することで、噛む力のバランスを保つことができ、歯槽骨が吸収されて土手がなくなってしまうことを防ぐことにもつながります。
入れ歯であってもしっかり噛めたり、食いしばれれば、全身の姿勢の制御や、力を籠める動作にも大きな影響を与えます。

歯の欠損が多く、入れ歯不使用の方に転倒する方が多いというデータも出ています。
いつまでもお口から食事をとり、元気に若々しくあるために、入れ歯の使用、調整は欠かせないことなのです。

編集後記

編集後記では毎回、編集部のおすすめする全国の歯科医院さんをご紹介させて頂きます。
※本編とは直接関係ありません

市川歯科医院(東京都港区)

生涯を通して健康な歯で過ごせる治療を第一に考えている医院さんです。歯科用CTやマイクロスコープなどの充実した設備を取り揃え、お一人おひとりに合った治療計画を作成しています。歯を失う前の予防に力を入れており、スタッフ一丸となって患者様の健康維持に努めています。